【書評】敗北を抱きしめて/ジョンダワー

うつ病再発防止に向けたサラリーマン生活
感想

 鳴かず飛ばずの出世競争から脱落した30代サラリーマンの私が

せめて教養を身に着けようと手に取った1冊。

 学生時代にピュリツァ―賞を受賞した本書の事は認識はしておりましたが、

読むことはせず、当時の2ch等の評判をチラチラ見る程度でした。

 社会人となり教養を身に着けようと今回、通勤電車の中で3か月かけて読みました。

 how to 本ばかり読んでいたため、上下巻併せて600頁にわたる本書を読むのに

かなり時間を費やしてしまいました。

 妻が日本人であるジョンダワーの本書は、当時の公式文書だけでなく、

一般市民の日記、投稿等からの出典も多く、戦後80年弱が経過する中で、貴重な資料

となっていると感じました。

 戦中産まれの方はまだご存命ですが、戦時中に大人だった方はかなり

亡くなられている中、このような生きた資料を見ることができるのは貴重と感じました。

 ただこのような著作が日本人の手ではなく、米国人によって記載されたことに

なんともいえない感情を抱いてしまったのも事実。

 通勤時間の満員電車の中で身体をひねりながら本書を読みましたが、

今は音声学習・音声読書が流行りのようです。

 これなら満員電車の中でも楽に読書できそう。

 第一章

アベノミクス・新資本主義に代表されるように今の日本では「自己責任」強調され、

「自助」が重視される一方、戦前のいわゆる「古き良き時代」では「公助」、「助け合い」

があったと思いきや、戦後も「自助」が重視されていたことが当時の投稿等から

如実に記載されています。

第二章~天降る贈り物

 初期の占領軍の理想主義的なイメージ&日本人を下に見たイメージの相反する矛盾するイメージ

について記載。

第三章 虚脱

 日本人としてはあまり読みたくはないが、所謂敗戦国によくみられる占領軍相手の売春と

それをごっこ遊びする子供たち。その様子がきめ細やかなに記載されている。

第四章 敗北の文化

 カストリ文化、カストリ紙といった言葉は知っていましたが、その背景等を知ることが

できました。

 太宰治の「斜陽」の記述の背景等が手に取るようにわかります。

第五章 言葉の架け橋

 当時のはやりの言葉は、単に戦中の言葉の流用。少年Hでもありましたが、

そうそう人間は変わらず、普段口にする言葉も変わらないのかもしれない。

第六章 新植民地主義的革命

 占領軍の大半が戦前の知日派ではなく、むしろ知日派を押しのけた理想主義者・単なる軍人

から構成されていた事に驚く。

第七章 革命を抱きしめて

 「敗北を抱きしめて」をもじった省題。

民主化については、イメージでは完全に占領軍・GHQからの押し付けとのイメージでは

あったが、下からの協力・自発的な動きがあった事は知らなかった。

社労士の勉強にも関係してくる「労働安定所/公共職業安定所」はホテルのバーの女性店員

の発案。ホテルのバーの女性店員とGHQの将校との関係は本書では深くは語らない。

第八章 革命を実現する

 公職追放からレッドパージへの流れ。本書に明示されていないが、

「55年体制」の源流・背景について記載されているように感じる。

第九章 くさびを打ち込む

 源頼朝、足利尊氏、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、徳川慶喜がそれぞれ優位に立ちながらも

悩んだ宮中。

 朝廷・宮中は伊達じゃないということを再認識。

第十章 天が途中まで降りてくる

 天皇の人間宣言についての章。

教科書では、天皇の人間宣言について、国民は多くの衝撃を受けたと記載があるが、

本書では、国民はあまり興味を持っていなかったと記載(→結構びっくりしました)

第十一章 責任を回避する

 本書がピュリツァ―賞を受賞した際、天皇制に批判的であると一部から非難された所以の章

であると感じました。

 後半の復員兵の日記がリアルであり、はだしのゲンや少年Hでも同じような描写がありました。

少年Hでの記述が思い出されます。

「みんな海の中の海藻と同じだ。波の流れに逆らわず、その方向に揺れる。

僕は海藻のようになれない。波の動きが急激に変わるとポキッと折れてしまう」

第十二章 GHQが新しい国民憲章を起草する

 今の日本国憲法。GHQからの押し付け憲法といった批判がつきまとう。

当初はGHQは憲法制定を日本政府に委ねたことは知らなかった。

第十三章 アメリカ草案を日本化する

 今でも議論を巻き起こす憲法9条の平和条項についてのそれぞれの思惑。

日本の再軍備を懸念する中華民国等により要求された第66条の「文民条項」。

軍務大臣現役武官制と対比されることが多いが、この第66条が逆に

暗に軍部の存在を容認することとなったのは皮肉。

たしかに軍部・軍人がいなければ、その対比の「文民」自体が存在しないのだから。

第十四章 新たなタブーを取り締まる

 所謂レッド・パージのお話。

和らかな暗黙の了解と懲罰を組み合わせたGHQのやり方は実に巧妙。

誰もが「忖度」、「自己検閲」するのだから。

日本の大企業でも同じだよね・・・。

第十五章 勝者の裁き、敗者の裁き

 東京裁判の舞台裏。東条英機などの統制派の軍部に全責任を押し付けることについて

米国、宮中等の思惑が一致。

 近衛文麿が暗躍していることは知っていましたが、2・26事件で失脚した皇道派の大物

の「真崎大将」までが暗躍しているのは知りませんでした。

第十六章 負けたとき、死者になんと言えばいいのか。

 本章は最初は哲学的で最初はとっつきにくかったですが、読み進めるにつれ、内容を理解。

親鸞等にまで話を広げたジョンダワーに改めて驚き。

天皇ですらGHQに表立って逆らえない(忖度せざるを得ない)なか、戦犯指定された

者だけが裁判の中で自由に戦勝国を批判できたのは皮肉。

第十七章 成長を設計する

 戦後の経済政策・戦後復興の話。経済史の知識がないと読み進めるには少し難しい。

エピローグ

 警察予備隊の話から始まり、本書が執筆された2001年までのあらすじ。

憲法は改正されず(2001年当時の記載ながら、2022年の今でも改正されず)、

ジャパンアズナンバーワンともいえなくなった2001年からの記載。

2001年から21年たった2022年にこのエピローグを読むと、失われた30年を如実に感じる。

3か月も本書を読み進めるのに時間がかかりましたが、

このようなサービス(要約サービス)があるようです。

これは便利だな。

コメント

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