【書評】蟹工船・党生活者/小林多喜二

うつ病再発防止に向けたサラリーマン生活
概要

 最近、仕事がほぼ8時~23時続く日々。

帰宅は24時頃。帰宅後も持ち帰り仕事。

 人件費抑制で昇給も昇格も見込めず、残業はうまくやれとの指示ばかり。

 ホワイト企業のJTCに入社したつもりが、辛い日々が続く中、ふと目にした「蟹工船」。

 日本史の授業で、プロレタリア文学であり著者の小林多喜二は特高警察に拷問され死んだと習ったことを思い出す。

 大企業JTCの資本家の豚となってしまった私ですが、大人の教養として、そして救いを求めるような気持ちで手に取ってみました。

蟹工船

あらすじ

 北海道はオホーツク海での蟹の缶詰を作る工船での労働者たちの物語。

 当時は冷凍保存技術が乏しく、漁夫が蟹を漁でとった先から、同じ船の中の工場で工夫が缶詰を作る。

 缶詰工場がメインの船なので、当時もあった船舶法が適用されず、また戦前とはいえルールのあった日本本土の一般的な工場とは異なり、海上のため、工場法も適用されない(遵守しなくてもわからない)無法地帯のような蟹工船での漁夫・工場労働者の話。

 ソ連領内で違法操業し、蟹を収獲するための小舟が行方不明になれば、捜索はするものの、すぐに見捨てる体制。

 母船の蟹缶詰製造工場内では、病人が出たら気持ちばかりの診察で放置。肉体的な罰則も多く、リンチまがいの制裁も行われる。

 形ばかりの雇われ船長はいるものの、蟹工船内の実権は蟹工船を保有・運営する財閥系企業から派遣された監督が握る。

 監督はノルマ達成のために、行方不明になった蟹を収獲するための小船の捜索は行わず(作業工程が遅れるため)、母船の蟹缶詰製造工場内では、出来の悪い工員をリンチまがいの制裁を行い、死者が出ても、簡易な葬式(葬式とさえいえない)だけで海に死者を流す。

 工員はくいっぱぐれた炭鉱労働者や貧乏な青年たち。

 そのような環境の中、仲間がリンチまがいの制裁で亡くなり、死者の尊厳も守られないような埋葬をされ、工員たちが漁夫・雑夫と連携し、反乱を起こすお話。

 一度は反乱は成功したかに見えたが、領海警備の駆逐艦に制圧される。

 工員達は、純朴な若者たちで、国家は我々を守ってくれる、駆逐艦の海軍水兵は国民の味方だと信じてやまないが、制圧され、首謀者達は逮捕。

 最後の数ページで大どんでん返し。駆逐艦が去った後、再び反乱を起こし、成功!

 ただ最終的には制圧され、この物語のラスボス的な監督は、あっさりと会社からうまく蟹工船を運営できなかったとして解雇。

感想

 一般的には工員・漁夫による資本主義への抵抗・そして鎮圧されるといったプロレタリア文学としての作品だと思う。

 当時の劣悪な労働環境、資本主義の醜さ等を表した作品。

 作品を読むと監督への怒りが増し、最後のどんでん返しで反乱が成功した時は、気分が高揚する。

 ただ監督もあっさり会社から解雇されたのを見て、極めて複雑な気持ちになる。

 最後の1頁までラスボスで力を持っていた憎き監督も所詮は資本家の犬であり、労働者であったのだ・・・。

 一般的な蟹工船の感想とは違うかもしれないが、私は監督の行方に強く心を揺さぶられた。

 イギリスの植民地統治と同じく、現地人を虐げる現場管理者は、別の人種をあてて、憎しみを現場管理者に集中させる。

 本当のラスボスたちは安全できれいな部屋で綺麗ごとをいうばかり。

 今の日本の企業と同じではないだろうか。

 ワークライフバランス・パーパス・環境・SDGS。経営者たちの言う言葉は美しく何も間違っていない。

 現場では減らされた人員・予算で中間管理職が社員を働かせる。

 厳しく指導するとパワハラといって処分される中間管理職たち。

 パワハラ・制裁ができない分、今の中間管理職は蟹工船の監督よりも悲惨なのかもしれない。

党生活者

あらすじ

 パラシュート工場内での共産党員たちのお話。

 蟹工船と比べ、オル・セクト等といった共産党系の専門用語が出てくる。

 蟹工船も主人公はいたが、どちらかと言えば群像劇に近い。一方、党生活者は主人公の私目線で一貫して話が進む。

 労働者へのビラを工場に隠れて持ち込むために女性党員のパンツの中等に忍ばせて持ち込ませたり、警察からの目をかいくぐるために下宿を転々としたり。

 工場による一斉の首切り(雇い止め)を阻止すべく、主人公は色々動くが、工場側が1枚上手で失敗し、俺たちの戦いはこれからだ!といった感じで締めくくられる。

感想

 蟹工船と比べるとより共産党系・プロレタリア文学感が強い作品。

 当時でも、今の感覚でもそれって非合法活動だよね・・といった内容もチラホラあるが、工場の雇止めを阻止すべく奔走する主人公が頼もしい。

 非合法活動に従事するための親との別れ(縁切り)、親の気持ち・主人公の気持ち。

 当時の生活等も描写され、闘争だけの小説ではない。

 工場の雇止めに、実力行使で阻止しようとする主人公たちに、現代の価値観からすれば少し引くところもあるが、今の労働組合も少しは見習ってほしいと思った。

カメ(夫)
カメ(夫)

 ちょっとしたスパイ小説みたいなハラハラドキドキがあります。

 また1930年頃の日常の生活描写もあり、勉強になる。

 蟹工船・党生活者は文庫本で1冊にまとめられており、そこまで頁も多くないので比較的早く読めます。

 文庫本の解説文が昭和28年であり、時代を感じる1冊。

コメント

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