この一冊は、図書館でふと目にして手に取りました。著者は群ようこ氏。読み進めるうちに、「どこかで見たことのある名前だな」という既視感の正体が判明しました。この小説こそ、子供の頃に視聴していた日曜日のTBSドラマの原作だったのです。
ドラマでは、竹中直人さん、ともさかりえさん、雛形あきこさん等が出演しており、特に竹中直人さんの怪演が子供心に面白く映っていた記憶があります。主題歌である佐藤竹善さんの**「WIND OF CHANGE」**も、非常に印象に残っている曲です。
この小説(上下巻)は、小難しいことを考えず、すらすらと気軽に読める点が魅力です。上下巻を一気に読み終えてしまいました。大きな起承転結があるわけではありませんが、かつて子供だった私が40代アラフォーとなった今、この本を読んで心から「ほっこり」しました
90年代末期を生きる「カズオ」と、現代の40代サラリーマンの共振
物語の舞台は90年代末期です。これは、アラフォーの私が青春時代を過ごし、社会の変化を体験し始めた時代と重なります。
中心となるのは、お人好しな父(カズオ)、しっかり者の母(サチコ)、真面目な長女(ナオコ)、そして今時の女子高生の次女(ユカリ)からなるヤマダ一家の群像劇です。物語は主にカズオを中心に展開し、彼の転職が一応の本筋となっています。
カズオは、中堅サラリーマンとして厳しい時代の中で生活を立て直そうと必死に「辛抱」します。
90年代末期にイケイケ女子高生だったユカリも、今や40代中盤。そして、私自身も、物語のカズオの年齢に近づいています。
時代は平成から令和へと移り変わりましたが、会社における中年の苦悩や、家族を維持しようとする「辛抱」の構造は、本質的に変わっていません。
家族全員が抱える「日常の辛抱」
この小説の深みは、父カズオの転職だけでなく、家族一人ひとりの日常にも光が当たっている点にあります。サチコの職場の事情、ナオコやユカリの学生生活、さらには隣人一家の一人息子(今でいう子供部屋おじさんのような存在)の結婚話など、様々なエピソードが間に入ってきます。
彼らは皆、それぞれの立場で小さな「辛抱」を抱えながら、それでも日常を淡々と紡いでいきます。この激しさのない、穏やかな日常の描写こそが、多忙な40代読者にとって癒しとなるでしょう。
ドラマ主題歌に込められた「哀愁」のメッセージ
子供の頃、ドラマを「ほっこり家族ドラマ」として面白く見ていましたが、主題歌の佐藤竹善さんによる「WIND OF CHANGE」は、ドラマの内容とは少し異なり、物悲しく哀愁が漂っているのが印象的でした。
私は、この哀愁こそが、バブル崩壊後のサラリーマンの現実、そして家族の抱える普遍的な「辛抱」を象徴していると感じています。
この小説を読み終えて感じたのは、激しい展開はないものの、穏やかで心に染みる作品だということです。私はこれを、映画『アメリカン・ビューティー』になぞらえて、「激しくなく、穏やかなアメリカンビューティーの日本版」だと感じています。もちろん異論はあるかと思いますが、『アメリカン・ビューティー』も、子供の時とアラフォーになって見た感想が異なる、私にとって大切な映画です。
かつてドラマを観ていた方々、そして90年代を背景に現代を生きる40代の方々にとって、この『ヤマダ一家の辛抱』は、自身の人生を穏やかに振り返るための絶好の一冊となるでしょう。
異論はあると思うが、激しくなく、穏やかなアメリカンビューティーの日本版って感じ。
アメリカンビューティーも子供の時に見た感想とアラフォーになってみた感想が異なる好きな映画。


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